老化について考えてみましょう
人には必ず「老い」というものが訪れます。程度の差こそあれ必ず自分に訪れるものです。「老化」という言葉の意味を広辞苑で調べてみると、このような定義です。
①年をとるにつれて生理機能が衰えること
②時間の経過で変化し特有の性質を失うこと
そして、まず意識して頂きたいことは、老化とはカラダの「正常な変化」だということです。老化は身体機能、特に電気的な活動に影響を与えます。つまり運動、感覚、認知プロセスのスピード、情動プロセス、視覚・聴覚の変化、歩き方や姿勢etcといった神経活動に影響を与えていきます。
「歴年齢」と「機能的年齢」の考え方
老化の基準を時間ではなく身体の機能によって特徴づけました。
高齢者の方は、この「機能的年齢」という概念を重要視する必要があります。なぜならば、健康であり続けることと、この機能的年齢の概念は密接に関係しているからです。
サクセスフル・エイジングの考え方
いまや「アンチエイジング」という言葉はとても浸透しています。よく化粧品の宣伝に使われていますね。日本語では「抗加齢」や「抗老化」と表現されます。アメリカでは高齢者の寝たきりを予防するために、Balance and mobility instructor certification programというものがあり、このプログラムのインストラクターであるDr.Morgenthalは、その著書『The Aging BODY』にて
「サクセスフル・エイジング」
という表現を使用しています。私はこの言葉がとても気に入っています。先にも言及しましたが、老化とは生き物にとって「正常な変化」です。決して病気ではありません。万人に組み込まれた生物時計に、この変化は生まれたときから刻まれているものなのです。もちろん美容産業ではアンチ・エイジングという表現の方が好ましいでしょう。女性は何歳になっても女性であることを忘れないのは当然です。しかし、美容の追求が必ずしも健康の維持や増進にいたるとは限らないのです。
機能的年齢や健康であることを考える場合、このサクセスフル・エイジングという意識を持つことがとても重要だと思います。つまり、「抗加齢」・「抗老化」ではなく、
「上手に加齢する」
「加齢に成功する」
という表現が正しいのでないでしょうか。
サクセスフル・エイジングを実践する方法
ここでは腰痛・五十肩・膝の痛み等の原因にもなる運動活動についてお話したいと思います。運動活動の低下は高齢者にしばしば見られる特徴です。特に関節の障害が多くみられます。膝の痛みを訴えて病院へ行き、膝の軟骨の変性を告げられ、「膝の使い過ぎが原因ですね」と医者に言われたので、なるべく膝を使わないようにしている。このような経験をお持ちの方はいらっしゃいませんか。しかし、このドクターが告げたことは本当でしょうか?
軟骨の変性について、これまでは過剰な荷重によって生じるのが一般的な見解でしたが、軟骨の軟化や線維化はむしろ「使用不足」が原因で生じると考え方が変わってきました。
ちょっと難しい話になりますが、関節を構成する軟骨、腱、靭帯、半月板といった組織は大雑把に言うと水と基質(コラーゲン等)と呼ばれるもので構成されています。そして人間が日常生活をおくる上でカラダにかかる重力などの負荷に対抗するために水と基質の比率・構成を変化させます。例えば荷重を確実に支持するような場所にある軟骨はより硬固な構造が必要なので基質成分の配合が多くなります。半月板は荷重を支持しつつもある程度の柔軟性が要求されるので、軟骨よりも水分がより多い成分配合となります。
そして軟骨としての役割を生涯機能し続けるには、上記の基質の生成と分解がバランスよく行われる必要があります。つまり、リモデリング(作り換え)がなされる必要があるのです。人間のカラダは作っては壊し、作っては壊しを繰り返して最適な状態を保っているのです。そしてこの基質を作りだしているのが軟骨細胞です。興味深いことに、この基質は関節に正常な負荷が加えられるとシグナルを自分の産みの親である軟骨細胞に向かって発します。すなわち「この基質は古いので、分解して、新しいもの生成をしてください」と指示を出しているのです。
「正常な負荷が加えられると」というのは、しっかりと関節に荷重圧を加えてあげることです。つまり、
「関節を繰り返し使う」ことが、軟骨をベストな状態にするのです。
高齢者の方々は若者に比べたら何倍もの刺激回数を関節へ与えてきました。しかし、日常的な関節の使用は関節軟骨を摩耗させるのではなく、むしろ保護する行為であり、不使用による(座っていることが多い、歩かない等)関節への圧力欠如の方がはるかに軟骨の状態を悪くさせるのです。
つまり、サクセスフル・エイジングの実践に重要なのは、
「しっかりと関節に荷重をかけてあげる」ことです!
このことを実践するのにトレーニングなんて必要ありません。疲れやすいからといって、自宅にこもってしまうのではなく、買い物にいったり、友達とお茶したり、お孫さんと散歩したり、遊んだり、ちょっと少し前まで普通にしていた日常生活をおくってくださればいいのです。この生活であなたの「機能的年齢」は「歴年齢」を下回ることでしょう。
高齢者の「疲れやすいカラダ」を「疲れにくいカラダ」に機能をアップさせていくのも当院の治療コンセプトの一つです。「若く見える」という表現は決して外見だけを表しているのではありません。
「歴年齢」でなく「機能的年齢」を意識するライフスタイルを目指しましょう!